豊島事件と産廃問題

No.22 産廃の広域処理と廃棄物処理法の整合性〜自県(圏)内処理は可能か〜 2003/1/20

<不法投棄を防ぐ仕組みは難しい。原状回復はもっと難しい。>

 今日の日経新聞・社会面に青森・岩手県境の不法投棄事件の記事が載っていました。環境省は原状回復費用の半分を特別立法で援助する方針を決めていたので、解決に向かって着々と前進しているのかと思っていました。ところが、実際は、処理策をめぐって両県の足並みは乱れ、解決の道筋は見えないそうです。

 排出事業者にも、処理業者の許可を出した行政にも責任はある。原状回復にはお金がかかるわけで、この不景気の時代、どこに責任を負わせ、どこから原状回復費用を捻出するかは大問題です。

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  廃棄物処理法では、産業廃棄物について事業者責任の考え方をとっています。事業者がその責任により適正な処理を確実に実施できる場所を確保し、処理される場所がどこであっても適正な処理が実施されればよい−すなわち、広域処理には特段の問題はないという立場がとられています。

 経済性の原則に従うと、都会のゴミが地価の安い田舎へ流れてきます。千葉県が不法投棄銀座になっているのは有名ですが、産廃はどうしても、人里はなれた山間部に不法投棄されがちです。このような不法投棄が後をたたないことから、多くの自治体(15道県)では県外産廃の受け入れを規制する規定を設けています。

 ただ、廃棄物処理法と抵触するような条例を作ることは憲法違反(条例は法律の範囲内でしか制定できません。憲法94条)になりますので、原則搬入禁止は要項で規定しています。

 環境省が地方公共団体ヒアリング等をまとめた産業廃棄物行政に関する懇談会報告書 (平成14年6月) http://www.env.go.jp/recycle/report/h14-01.pdf を取りまとめています。

 広域処理の原則をとりつつ、産廃の不適正処理等の問題は当該地域の地方公共団体が行うことになるので、地方公共団体が産廃に関する条例を定めようとすること自体は評価されるべきものとしています。

 あまり都会のゴミを拒否されても困るが、不法投棄が発生し、原状回復費用を自治体が負うとなると負担が大きいので、条例を定めることはやぶさかではない、というスタンスです。

 地方分権一括法が制定される以前は、産廃行政は「機関委任事務」という国の下請けのような仕事だったので、条例による制限を加えることは困難でした。いまは暫定的に法定受託事務になっています。これは国が法令で自治体に委ねるものですが、国の関与は弱まっています。

 東京都や大阪府のような大都市に産廃の処理を全て都内・府内でやりなさい、となると東京湾や大阪湾を全て埋め立てて、最終処分場にするくらいしか方法がないでしょうから難しいと思います。でもある程度の範囲で責任を持つ、自圏内処理なら可能ではないでしょうか。    では、地方が産廃の県外受け入れ原則拒否条例を定め、自県(圏)内処理原則を採ることは可能でしょうか。

   条例の違法性とは、なぜ県外廃棄物を規制するのか(立法事実)、規制を行うことによって何を守るのか(保護法益)、その規制は、保護法益に対して適正か否かによって検証されるそうです。(シンポジウム「ゴミの行方」2001年12月2日http://kagawakankyo.hoops.livedoor.com 参照)

 そして、その立法事実と保護法益が廃棄物処理法と同一かどうかも検証されるそうです。廃棄物処理法や条例によって、最終的にまもるべきものは財産というよりは命・健康な生活でしょう。

  経済活動の自由も大事ですが、命や自然を犠牲にした経済活動ではないはずです。山の多い日本で全ての場所に産廃Gメンを張り付かせるわけにはいきません。やはり、経済性の原則だけではない何らかの歯止めが必要だと思います。

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