消費者がかわらなきゃ!!

No.39 NPO法人の収益事業 その1 +流山ユー・アイ・ネット課税取消訴訟 1審判決  2004・4・15

   
       <何の関係もないけど「銀閣寺」の庭園です>

 さて、近頃よく耳にするNPO法人というと、福祉や介護、環境、人権、平和、教育な どを目的としたボランティア団体、少なくとも営利目的ではない団体のようなイメー ジです。 平成10年3月25日に公布された特定非営利活動促進法は、略称「NPO法」と呼 ばれています。

 非営利というのは「儲けない=営利目的ではない」という意味ではあ りません。 非営利というのは、団体構成員に対して利益分配・剰余金配当をしないことを意味し ます。

 営利法人(株式会社や有限会社)は利益が出た場合には出資者に対して配当を 行うことを目的としますが、NPO法人の場合、利益が出ても配当はしません。同様に、 NPO法人を解散するとき、団体構成員に残余財産を分配することもできません。

 このような社団(=人の集まり)に対して法人格を付与するのが特定非営利活動促進法です。民法34条(公益法人の設立)の特別法という位置づけです。ですから、N PO法人も公益法人等という類型に属する人の集まりです。

  公益法人等というのですから、公益目的が必要です。NPO法の第2条別表に17種 類の活動が限定列挙されています。これら17種類の活動(宗教活動や政治的活動は 主たる目的にできない。選挙活動は目的にできない)に関し、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものが特定非営利活動になります。 営利を目的にしないので、団体構成員に対する剰余金配当や利益配分は行えません。

  ですが、「非営利だから収益事業をしてはならない」ということではありません。 団体が活動をするのですから何らかの資金が必要です。寄付金や会費収入も資金の一 部です。ですが、これらの資金だけでは活動をまかなえない場合、有償ボランティア や特定非営利活動に付随する事業として収益事業を行うことはなんらさしつかえあり ません。

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 このあたりまで、つまり、NPO法人が収益事業をしても大丈夫、という点に関して は理解が深まっているようですが、じゃ、NPO法人が特定非営利活動に関連して収 益事業を行う場合、税金はかかるのか、という点については誤解している人も多いよ うです。

  法人格をもつNPO法人は税務上、公益法人等として扱われますが、公益法人ほどの 税制優遇はありません。ただし、フツウの会社の場合は全ての収入に対して課税されますが、NPO法人の場合は、法人税法施行令5条に限定列挙された33業種の収益 事業を行った場合に限り、課税対象となります。

  ですから、NPO法人が受け取る会費収入も、寄付金も(原則として)課税されることはありません。 NPO法人が資産を譲渡した場合、基本的には収益事業の付随行為として課税されますが、収益事業の廃止などによる処分の場合は収益事業にかかる損益に含めないことができます。

  この資産が非収益事業の資産である場合は、譲渡益に対して税金が課されることはあ りません。 NPO法人は学校法人や社会福祉法人、宗教法人ほどの税制上の優遇措置はありません が、原則すべてが課税対象となる株式会社、有限会社、中間法人よりは税制上ずっと 有利です。

 ただし、法人税法施行令で定める33業種の判断が難しいのです^^;「対価を得て行う事業」 は収益事業にはなります。

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  世間相場ではなく、ボランティア相場・NPO相場で行う 対価によって利益を上げた、しかし、課税当局は収益事業として課税処分としてき た、というケースは争いがあります。 先日4月2日に千葉県の流山ユーアイネットの「助け合い事業」が収益事業に当たる かについて千葉地裁の判決がありました。原告(=ユーアイネット)全面敗訴となり ました。

  千葉県流山市に平成11年4月26日に法人格を取得したNPO法人「流山ユー・アイ ・ネット」があります。ユー・アイ・ネットでは公的介護保険業とは別に、「ふれあ い事業」を行っています。家事などを手伝う会員を別の会員のもとに派遣。点数制の 「ふれあい切符」(時間預託制度・地域通貨(エコマネー))を流通させ、1時間の ボランティアにつき800円になる8点が、利用者からボランティアをした側に渡され ます。 このうち6点600円が協力者に渡され、2点200円分がユー・アイ・ネットに渡されます。 ユー・アイ・ネット側はこの200円分を寄付と主張しています。

 ふれあい事業は有償 ボランティア活動であり、非収益活動だと位置づけていました。 ところが、税務署側は「ふれあい事業」は課税対象の家政婦業と同じく仕事の完成を 目的とする「請負業」、800円はその報酬、200円は斡旋の報酬だと主張し、平成12年度の所得285万円に法人税約80万円を課税対象とする更正処分をしました。

 この処 分に対し、ユー・アイ・ネット側では異議申し立て、国税不服審判所への審査請求を 経て、平成14年8月に訴訟を提起していました。 その判決が4月2日に千葉地裁で言い渡されました。「原告の請求を棄却、訴訟費用 は原告が全面的に負担する」というものです。判決では「ふれあい事業」を課税対象 となる請負業と判断しました。原告側は控訴するそうです。
http://www.sawayakazaidan.or.jp/i_index.htm

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  流山ユーアイネットの「ふれあい事業」はエコマネーを利用した相互扶助の精神に基 づく会員同士の助け合い活動です。環境とか福祉とか「お金で換算できない価値ある もの」に関してこのような仕組みを利用することは素晴らしい案です。

  原告側は600円の金員は労働に対する報酬ではなく、ボランティア活動に対する謝金、 200円は原告(ユーアイネット)に対する寄付。従って、「ふれあい事業」は請負に 当たらないという主張をしています。

  もし、収益事業と認定されるとボランティア参加の善意や動機が阻害され、ボランテ ィア性は消滅する。ボランティア活動は、行政や企業では実現できない公益を実現するところに意義があり、そのニーズは時代の要請であるが、収益事業として課税され ることにより、企業と同性質の活動しか行えなくなってしまう、というのが原告側の 主張です。 (実際のところ、収益事業と認定されると「最低賃金法」「労働基準法」「所得税 法」などの法令違反問題が発生します)。

  しかし、有償ボランティアという位置づけとはいえ、何故謝礼が600円なのでしょう? 最低賃金法以下だけど、ボランティアだからかまわない(無償よりはマシ)とい う位置づけでしょうか?(以前から労働の対価がボランティアであるどころか、持ち 出しまでして市民活動を続ける必要があるのだろうか、と疑問に思っていました。

 「安いけど無償ではないのが有償ボランティアの定義」となって、そ れが要件となるとボランティアができる人は暇とカネのある人だけに限られてしまいます) そして今回課税対象となった部分は200円部分の寄付が蓄積された部分です。

  NPO法人の行う特定非営利活動とはいえ、継続性があり、法人税法施行令5条の 33業種に該当する事業で対価を得て行う事業は(除外項目を除いて)収益事業だと みなされます。

  流川ユー・アイ・ネットも訪問介護や介護保険事業、委託事業などの収益事業を行っ ています。200円を流川ユーアイネット側はネットに寄付する「ふれあい事業」を<非収益事 業>と位置づけています。課税庁側は「収益事業に付随する事業」として課税対象としています。

  NPO法が意図する本来の特定非営利活動は非課税となるはずです。寄付や補助金を原資に非営利活動を行うのですから。ですが、NPO側が自主財源を求めるようになるとこの「あるべきNPOの姿」がかわってくるはずです。

 本来の特定非営利活動に付随して、そして、特定非営利活動をパワーアップするための収益事業は大いに 行うべきだと思います。特定非営利活動が無償の行為なら課税対象とするのは疑問で すし、特定非営利活動が全て収益事業となった場合の税法上の取扱など解決すべき問 題は多い。

  でも、現行の税法の仕組みの枠組みでは収益事業に対する課税は避けられません。 この点に関し、明治以来の歴史のあるこれまでの公益法人制度を抜本的に改正しようと いう議論が続けられています。3月31日には内閣府の有識者会議による中間的整理 が出されました。この論争は次回便で。

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