電力自由化政策
No.18 米・カナダ大停電〜安定 vs 効率〜 2003・8・18
電気というのは同時同量が要求される特殊な財です。普通の商品のような「在庫電力」をキープしておくことができないので、必要な時間帯に必要なだけの電力を供給する必要があります。そして、電気なしでの現代生活は考えられませんので、どこに住んでいても誰でも平等に電力の供給を受けられる。そして、誰かが電力供給に責任を持つ必要があります。
それが供給責任、ユニバーサル・サービスと呼ばれるもので、日本の電力会社は地域独占が認められるかわりに、供給責任を負わされてきました。 その結果、日本の電気は高品位の質を誇り、停電が起こることはまずありません。が、その結果として、日本の電気の値段は世界でいちばん高くなっています。
日本ではどんな僻地でも、どんな離れ小島でも、人が住んでいる限りは、電力を供給してもらえます。ところがここ数日、大停電が話題になっているアメリカは日本のような垂直統合(発電、送電、配電をひとつの電力会社が行うこと)の電力供給システムではありません。そして、中小いろんな形態の電力会社が存在する(1999年末で3160社)ため、「供給責任」は負わされていません。
従って、国土の広い全米では電力の供給を受けることができない地域がかなりあります。 日本では一般家庭が電力会社を選ぶことはできません。埼玉県に住んで、北海道電力と契約することはできません。
ところが、アメリカでは50州のうち約半分が自由化されています。自由化された地域では自分の好きな電力会社を選ぶことができます。安い電気を供給するA社を選んでもいいし、割高だけど自然エネルギー発電を行っているB社の電気を選ぶこともできます。
このような「環境にやさしい選択ができる」というメリットもありますが、割高でも自然エネルギーを選択しようという家庭数はトーゼン多くはありません。多くの家庭や大口需要家は「安い電気」を選ぶでしょうから、安価な電力→化石燃料による発電が多くなってしまいます。
これが電力自由化ということですが、今回の大停電で証明されたようにインフラ整備に責任をもつところがなくなります。既存の送電網を利用するのはOKですが、新規のインフラ整備は儲けにならないのでどこも、あえて整備しようとしません。
ISO(Independent System Operator)と呼ばれる系統運用者が運用権を任されているケースが多いのですが、ISOは非営利組織なので送電インフラへの投資が働かないというデメリットがあります。 同様のことは長期のリードタイムを必要とする原子力発電についてもいえることです。アメリカではスリーマイル島事故以来、新規の原発の建設はとまっています。
今回の停電は1日以上に及んだようです。いまどき、電気がないと本当に困ります。テレビや電気、パソコンが使えないのはいうまでもなく、トイレも水道も使えません。考えただけで、ぞっとします。同じインフラでも水道やガスなら何とかガマンできますが、電気は必要不可欠です。
テレビや新聞の報道では、「日本で同様の停電が起こる可能性」や「自由化議論への影響必至」といった論調が目立ちます。電力はネットワーク産業ですから、規制を全て撤廃するわけにはいきませんが、国策を実施する民間電力会社という今の構造をいつまでも続けるべきではありません。
基本的に、電力市場は100%自由化すべきで、消費者側の選択が可能な制度にする方がいいと思います。一般家庭への自由化は新規参入者にとってメリットは少ないし、一般家庭で電力供給会社をかえる人も少ないと思います。でも、割高でも自然エネルギーを選択できる自由があることは大事です。
小口も含めて100%自由化することが「安定より効率」を選択したことにはなりません。安定か供給かの二者択一ではなく、「安定も効率も環境保全」もすべて大事です。「安定供給」「環境保全」「効率化」の同時達成は「長期エネルギー需給見通し」でエネルギー政策の基本目標としてあげられていることです。
そのためには、短期の視点しかもてない官僚にエネルギー政策を丸投げするのではなく、利害が対立するステイク・ホールダーによる開かれた議論を通じて日本型電力自由化の道筋を見つけていくべきだと思います。