電力自由化政策
No.19 原子力は生き残れない? 〜ブリティッシュ・エナジーの危機と原発交付金〜 2003・10・2
世界中では440基の原子力発電所があるそうです。エネルギー資源に乏しい日本では原子力推進策をとっていますが、イギリスも基本的には原子力維持の姿勢をとっています。ところが、電力自由化のさきがけとなったイギリスでは原子力政策は行き詰まっています。
かつてイギリス(正確にはイングランド、ウェールズ、スコットランドの一部)では電力は国有化されていました。国の直轄では効率的でないということでサッチャー政権下の1990年に電力プール市場へと移行しました。その後、この強制プール制もほころびが出たので2001年3月にはNETA(New Electricity Trading Arrangements)制に移行しています。
民営化された英国最大の電力会社ブリティッシュ・エナジー(電力の約2割を供給)がほとんどの原子力発電所を運営しています。プール制のもとでは、ベースロード電源である原子力は落札を確実にするためゼロ・ペンスで入札を行い、最後の1kWの落札を待つという変則的なものでした。
ところが、NETA制への移行によって卸売価格が約4割も下落、使用済み核燃料の再処理コストの高騰によって資金繰りが悪化しました。この経営危機が表面化したのは2002年9月のことです。政府から6億5000万ポンドの緊急融資を受けました。
再生可能エネルギーに市場競争力がないことはよくいわれますが、完全自由化をすると原子力もまた市場競争力はないのです。
今日の日経によると、ブリティッシュ・エナジーへの50億ポンド(約9200億円)規模の官民支援策が固まったそうです。民間債権者は債務を圧縮、政府は30億ポンドを越すとみられる将来の老朽化原発の解体コストの負担を引き継ぎます。
民営化しているブリティッシュ・エナジーは廃止措置まで責任を持つことを政府との間で取り決めていますが、解体コストを政府がもつことになると、不確定要素の大きなバックエンドに関するリスクから解放されることになります。
こうまでして、原子力を支援するのは、北海油田の枯渇が進んでいるからです。英国は2010年にも原油・天然ガスの輸入国に転落するとみられています。
一方で自由化のなかで初期投資や解体処理費用がかさむ原発の新規立地の具体的な計画はありません。2010年以降に閉鎖が相次ぐイギリスでは原発の発電比率は4分の1以下の5%に下がる見通しになっています。英政府は温暖化防止の削減目標達成のためにも原発新設が必要との姿勢をとっています。
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アメリカ東部やイタリアの停電騒ぎにみられるようにライフラインである電力は安定供給の視点が欠かせません。エレベーターも使えない、トイレも水道も使えない、電車も動かないという状態は悲惨です。
そういう意味で約3割の供給をしめる原子力を中心とした安定供給が最大の命題である日本の電力供給体制はそれなりに評価できると思います。
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ところが中長期的視点に立つと、原子力は市場優先政策(=グローバリゼーション)のなかでやっていけません。経済産業省のように「電力自由化は進めるが、原子力推進もすすめる」と主張する限りは、選択肢は2つしかありません。
ひとつは原子力の国有化とバックエンド費用に関する国の責任の明確化、もうひとつは原子力に対する経済的手法の導入です。
「民間電力会社なのに電気料金が高すぎる→電力自由化で電気料金を引き下げる」というのが1997年1月7日の通産大臣のお言葉です。となると、いまさら国有化というのはヘンでしょう。
「原子力に対する経済的手法の導入」というのは化石燃料に対して炭素税を導入し、原子力の価格を相対的に安くすることです。しかし、これまで「原発は安い」といってきた政策に反することになります。
安いどころかこれまで原発には多くの税金が投入されてきたという経緯があります。電源3法と呼ばれる「電源開発促進法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」です。
いま合併特例法に乗り遅れまいと各地で合併協議会が設けられています。原発の地元だけは電源3法による交付金がいっぱい入ってきます。せっかく入ってくる交付金をそのまま引き継ぎたいということが合併の妨げになる例(3例)があったそうですが、それらを加味した支給方法にするそうです。
目先のことだけを考えた旧態依然としたやり方です。このままではエネルギー政策は破綻してしまう。エネルギー枯渇国ゆえに、もっともっと真剣な議論が必要だと思うのですが・・・。