電力自由化政策

No.20 原発のバックエンド費用19兆円 2003・11・19

 数日前の日経新聞に、ドイツが2001年に定めた「脱原発法」に従って、ニーダーザクセン州の原発を停止したことが伝えられていました。これが法律制定後の第一号目の停止となります。政権の政策が変わらない限り、今後2020年ごろまでに、残り19原発を順次停止していくこととなっています。

 今回停止した原発は、1972年操業開始、出力660メガワットの加圧水型でドイツで二番目に古いものだそうです。運転停止後、放射能の減衰を時間をかけて待つ必要があるとのことから、解体は2015年ごろまでかかる見通しのようです。そして、その解体費用は、5億ユーロ(約637億円)と見積もられています。

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 一方、日本の原発から出した使用済み核燃料の処理にかかるバックエンド費用(再処理工場の操業費や解体費、放射性廃棄物を地中に埋める費用、中間貯蔵施設の建設費など)が今後80年間で19兆円かかることを電力業界が初めて公表したことが話題になっています。

 2002年1月に電気事業連合会は「バックエンド費用は2045年までに全国で約30兆円にのぼる試算」を明らかにしていますので、19兆円という額も少な目に見積もった額なのでししょう。


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 エネルギー資源に乏しい日本で原子力を国策として導入しようとしたとき、「エネルギー安全保障になる」「他の電源に比べて安い」という2つのメリットをあげていました。

 原子力は国産エネルギーとみなされますので、「政治情勢の不安定な中東に依存しすぎない」というエネルギー安全保障の観点からは評価できるエネルギー源ですが、「他の電源と比べて安い」というのは明らかに嘘です。

 これまで電源別の発電単価は1キロワット時あたり・・・水力13.6円、石油火力10.2円、石炭火力6.5円、LNG火力6.4円、原子力5.9円(1999年通産省発表)と原子力が一番安いとされてきました。ところが原発が停止した後も数十兆円規模の費用がかかるのですから、決して安い電源ではないことになります。

 それでも地域独占と総括原価方式(かかった費用はすべて電力料金に転嫁する方式)が認められるうちはなんとかなったはずです。原子力の後処理にいくらかかろうとも、電気料金を引き上げる→そして、需要者側には他の電力会社を選ぶという選択肢がなかったわけですから。  ところが、電力自由化の趨勢の中では、安易に電力料金に転嫁することもできません。

 新規参入者は石炭火力発電などで安価な電力を供給するため、既存の電力会社は対抗値下げせざるを得ず、電力料金への上乗せのような「安易な転嫁」は認められないからです。

 現在は、大規模工場、デパートなどに限られている自由化の範囲は、04年度には中規模工場やオフィスビル、05年度には小規模工場、スーパーなどに拡大し、電力供給対象の6割に広がります。

 電力会社も大口需要家を次々と安価な化石燃料を使用する新規参入者に奪われてはかないません。「電力会社としては国策の原発推進に協力する代わりに、政府に「応分のコスト負担」を押し付けたいのが本音だ」との記事もありました。

 つまり、@バックエンド費用を託送料金(新規参入者が送電網を使わせてもらう料金)に上乗せするか、A化石燃料に炭素税を課税する→原子力は非課税とすることによって相対的に原子力を安くする・・・方法をとる必要があります。そこまでして原子力を推進すべきか否かは、温暖化問題もからんでくるので、賛否両論、議論の多い点です。

 もっともこれらの方法は既存の原発についていえるだけです。電力市場が完全に自由化されると、「初期投資額が多く、リードタイムが長い。かつ、将来需要に不確定要素の多い」原子力発電所の建設など、民間電力会社は二の足を踏むでしょう。

 これまで何度も書いてきましたし、以前から疑問に思っていましたが、原子力に反対する人たちはどうして『電力自由化推進運動』をしないのでしょう?原発設置許可取消訴訟だと差止訴訟だの、ほとんど勝ち目のない裁判で争ったり、反対の署名運動をするよりずっと効率的だと思うのですが・・・

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